東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1250号 判決 1966年10月24日
控訴人 柏石油株式会社
右訴訟代理人弁護士 松井正道
右訴訟復代理人弁護士 松井健二
同 笹原桂輔
被控訴人 城南研磨材工業株式会社
右訴訟代理人弁護士 横田武
主文
一、原判決を取消す。
二、被控訴人は控訴人に対し金百四十四万六百円及びこれに対する昭和三十六年六月三十一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
四、本判決は仮に執行することができる。
事実
<省略>当事者双方の事実上の主張竝に証拠の提出、援用、認否は次の点を附加、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。
(控訴人の主張)
一、原判決添付目録(1)、(3)の約束手形の振出日は昭和三十五年七月十四日であり、同(5)の手形は同年同月十八日である。
一、本件手形の振出名義人は被控訴会社代表取締役柿谷信夫であるが実際は訴外吉田初郎が作成して振出したもので、このことは控訴会社において手形授受当時はわからなかったが後日判明したことである。
一、右吉田初郎は昭和三十五年六月頃被控訴会社の金融関係を担当するということで入社し同年七月一日株主総会の決議により取締役に更に同日の取締役会で柿谷信夫と共に代表取締役(各自代表)に選任されたもので、これにより手形振出の権限を含む経理関係一切の事務を担当していたのである。尤も被控訴会社では従来代表取締役たる柿谷信夫名義で手形の振出ならびに銀行との取引をしていた関係上吉田初郎が手形を振出すようになってからも同様右柿谷名義を以て(いわゆる隠れた代理として)振出していたもので本件手形も右の例にならったものである。
一、右吉田初郎が代表取締役に就任した日は昭和三十五年八月二日として登記されているがそれは次の如き経緯によるものである。即ち被控訴会社は吉田初郎の代表取締役就任登記を含む全役員の変更登記申請書を附属書類(同年七月一日の前示株主総会及取締役会の各議事録)添付の上所轄登記所に提出したところ右登記所より役員の任期満了日の計算につき再調査方示唆されたので調査したところ、任期満了日が同年八月二日であれば登記手続が可能であることが判明したので一旦右登記申請を取下げ更に同年八月二十五日に至り株主総会及び取締役の各議事録の各開催日の日附を同年八月二日附に便宜訂正の上前示のとおりの登記申請をなしたことによるものである。
一、以上のとおり吉田は少くとも昭和三十五年六月より七月にかけて被控訴会社のため柿谷を代理して手形振出の権限があったものであるが仮に本件手形については右権限を超えて振出したものであるとしても原判決記載の事情(原判決二丁表五行目より七行目まで)により控訴会社は右吉田が右手形を振出す権限があると信ずるにつき正当の事由があるものとして民法第百十条に基づき表見代理を主張する。
一、仮に右表見代理の主張が認められないとしても被控訴会社代表取締役柿谷信夫は昭和三十五年九月末ないし十月初頃控訴会社に対し本件約束手形金の支払をなす旨確約したから吉田の本件代理行為を追認したものと謂うべきである。
(被控訴人の主張)
一、控訴人の右主張事実のうち吉田初郎が昭和三十五年六月頃被控訴会社に入社したことは認めるがそれは補佐役としてであって金融関係を担当させるためではない。従って被控訴会社が同人に手形振出の権限を与えたことはない。
なお吉田が柿谷信夫<省略>と共に被控訴会社の各自代表であったことは認めるがそれは昭和三十五年八月二日以降のことである。その余の控訴人主張の事実は否認する。
(証拠関係)<省略>
理由
本件手形がいずれも訴外吉田初郎が被控訴会社代表者柿谷信夫名義を使用して控訴会社宛振出し現に控訴会社が右手形の所持人であることは当事者間に争がなく、右手形のうち(1)、(3)の手形の振出日は昭和三十五年七月十四日であり、(5)の手形の振出日は同年同月十八日であることは甲第一、第三及第五号各証の振出日の記載(甲号証の成立については後記)によって認められる。
従って被控訴会社は本件手形の振出人としてこれが所持人たる控訴会社に対し手形上の責任を負担すべきものであるところ被控訴人は右手形は訴外吉田初郎によって偽造されたものであると主張するので以下この点について判断する。
<省略>証拠を綜合すると、被控訴会社は昭和三十五年六月当時多額の負債を有し経営困難の状態にあったところから同月中旬頃訴外吉田初郎を会社に迎入れ従来の代表取締役柿谷信夫と共に代表取締役(各自代表)に就任せしめ会社の資金の調達、手形の振出、割引等金融面の運営に当らしめることとし、正式には同年七月一日株主総会の決議により取締役に、又同日の取締役会において代表取締役に選任せられたのであるが登記簿上は控訴人主張のような経緯によって同年八月二日に就任したことになっていること、従って右吉田初郎は代表取締役として被控訴会社のため手形振出の権限を有していたのであるが従来取引銀行の預金口座名が代表取締役柿谷信夫となっていた関係上同代表取締役の記名捺印を使用して手形を作成して振出すことにしたこと、本件手形(甲第一乃至第六号証)は被控訴会社が控訴会社から石油を買受けこれを他に売却処分して得たる金員を以て資金の調達を図るための右吉田初郎が被控訴会社の使用人をして代表取締役柿谷信夫の記名捺印を使用して右手形を作成せしめ控訴会社に対し訴外西村繁雄を介しその石油代金支払のため振出されたものであること、以上の事実が認められる。<省略>。
これを要するに本件手形は、訴外吉田初郎が被控訴会社の代表取締役として被控訴会社のための被控訴会社代表取締役柿谷信夫の名称を使用して手形振出の権限を有しこれにより同訴外人により作成して控訴会社宛振出交付されたものであることが認められる。
よって被控訴会社は控訴会社に対し右手形金<省略>の支払をなす義務があるのでこれが支払を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。<以下省略>。